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なぜ、あの店には入りにくいのか。

なぜ、あの店には入りにくいのか。

DESIGN EYE|第7号

一人で入りにくい店と、入りやすい店のあいだにあるデザイン

「入りやすさ」だけが、店の答えではないのかもしれない。

目次

  1. 扉の前で、何度も通り過ぎた店
  2. 入りたいのに、足が止まる
  3. 扉、のれん、ガラス、人の気配
  4. 入りやすくなって、遠くなったもの
  5. 入りにくさは、欠点とは限らない
  6. 誰を、どんなふうに迎えたいのか
  7. ホームページにも、入口の敷居がある
  8. 次に「入りにくい」と感じたら
  9. MIMOLA EYE
  10. 関連記事

扉の前で、何度も通り過ぎた店

もう、かなり前のことです。

都内の華やかな街で働いていた頃、
前を通るたびに気になる店がありました。

今では、
デパートや大都市で見かけるハイブランドのお店。

でも、僕の記憶では、
当時、国内には紀尾井町にしかありませんでした。

名前は知っている。

けれど、僕の周りには、
実物を見たことがある人がほとんどいない。

店ができたばかりの頃は、
そもそも何のお店なのかも分かりませんでした。

入口には、ドアマンが立っていました。

近くで働いていたから、
店の前はよく通る。

でも、入れない。

何のお店か分かってからも、
別の疑問が残りました。

「自分が入っても、よいのだろうか。」

どんな商品があるのか。
どのくらいの値段なのか。
見るだけでも、入ってよいのか。

今のように、
手元で何でも調べられる時代ではありません。

名前は知っていても、
扉の向こうのことは、ほとんど分からない。

結局、僕は、
一人では入る勇気がありませんでした。

ほぼ同じ時期に人生の節目を迎えた知人と、
一緒に入店しました。

入りたいのに、足が止まる

あの店が嫌いだったわけではありません。

むしろ、気になっていました。

実物を見てみたい。
中に入ってみたい。

それなのに、足が止まる。

第2号では、
「なぜ、この店には入りたくなるのか。」を考えました。

でも、
入りたくなることと、実際に入れることは、
少し違うようです。

あの頃の僕は、
商品や値段だけを気にしていたのではないと思います。

「ここは、自分が迎えられる場所なのか。」

そこが、分からなかった。

誰かに断られたわけでも、
入ってはいけないと言われたわけでもありません。

それでも、
自分で自分を、扉の手前に止めていました。

知人と一緒なら入れたのだから、
敷居は、店の側だけにあったわけでもないのでしょう。

誰と行くか。
どんな気持ちで行くか。

同じ入口でも、
そのときの自分によって、見え方は変わります。

扉、のれん、ガラス、人の気配

店の入口には、
言葉になっていない情報があります。

開いている扉。
閉じている扉。

中が見えるガラス。
向こう側を隠すのれん。

のれんは、不思議です。

中を隠しているのに、
掛かっていることで、
「営業しています」と知らせている。

見せないことと、
迎えることが、同時にある。

ただ、初めての人には、
それだけでは分からないこともあります。

一人で入ってよいのか。
何を頼めるのか。
どのくらいの予算が必要なのか。

入口の小さなメニューや、
外から見える一人分の席が、
その疑問に答えてくれることがあります。

人の気配も、入口の印象を変えます。

すぐに案内してもらえると思えば、安心する。

でも、
見るだけのつもりなのに、
すぐに声を掛けられそうで緊張することもある。

あの店のドアマンも、
お客さまを迎えるために立っていたのでしょう。

けれど、当時の僕には、
迎えてくれる人なのか、
入ってよい人を見分ける人なのか、
分かりませんでした。

こちらが何も知らないと、
歓迎のための存在さえ、
境界のように感じることがあるのです。

入口までの距離。
照明の明るさ。
商品の量。
その周りの余白。

そうしたものが重なって、
「自分が入ってもよさそうか」という感覚をつくっています。

入りやすくなって、遠くなったもの

もちろん、
店に入れる人が少ないより、
誰でも気軽に入れるほうが、
商売としてはよいのだろうと思います。

名前を知る人が増える。
商品に触れる機会が増える。

あの頃の僕のように、
扉の前でためらう人も少なくなる。

店にとっては、
喜ばしい変化なのでしょう。

でも、僕には、
少し残念な気持ちもあります。

いつまでも、
簡単には手の届かない、
孤高の存在であってほしかった。

名前は知っていても、
実物を見た人はほとんどいない。

そこへ行かなければ、出会えない。

入るまでに、少し勇気がいる。

そういう距離まで含めて、
僕にとっては、あの店の魅力だったのです。

ところが、いつの間にか、
どの街でも見かけるようになりました。

かつて特別だった店が、
僕の目には、
ありふれた高級店に映るようになっていました。

品物の質が変わったかどうかは、
この話とは別のことです。

変わったのは、
僕と、その店との関係なのだと思います。

身近になった。

でも、憧れは薄れてしまった。

一人では入れなかったくせに、
誰でも入れるようになると寂しいと思う。

ずいぶん勝手な話です。

けれど、
憧れには、そんな矛盾もあるのかもしれません。

入りにくさは、欠点とは限らない

では、
入りにくいままのほうがよかったのでしょうか。

そこも、簡単には言えません。

情報が足りなくて困っていたのは、
確かだからです。

ただ、
すべてが分かりやすくなれば、
すべてが魅力的になるとも限らない。

のれんをくぐって、初めて見える空間。

扉を開けて、初めて分かる雰囲気。

わざわざ出かけた先で、
ようやく手に取れる品物。

すぐには分からないことが、
想像する時間を生むこともあります。

あの店が、
どこまで意図していたのかは分かりません。

でも、
紀尾井町という場所も、
ドアマンのいる入口も、
前を通り過ぎながら中を想像した時間も、
僕の憧れの一部になっていました。

入口は、
人を迎えるだけでなく、
その店との距離もつくっているのだと思います。

誰を、どんなふうに迎えたいのか

第2号では、
街に「馴染む店」と「浮いている店」を考えました。

どちらが正解かは、
その店が、街の中でどんな存在になりたいかによって変わる。

入りやすさにも、
似たところがあります。

毎日、気軽に立ち寄ってほしい店。

時間を取って、
ゆっくり訪れてほしい店。

人生の節目に、
思い出してほしい店。

それぞれに、
ふさわしい入口があるのでしょう。

大切なのは、
敷居を高くすることでも、
低くすることでもなく、
その先にある時間と、入口がつながっていること。

静かに品物を選ぶ店なら、
入口にも、その静けさがあってよい。

でも、初めて訪れる人に、
「あなたも入ってよいのですよ」と伝える方法は、
あってよいと思います。

ひと言の案内。
小さな説明。
訪れる前に読める店の紹介。

特別な雰囲気を保ちながら、
ためらいを少しほどく。

そんな迎え方も、できるはずです。

ホームページにも、入口の敷居がある

ホームページを見ているときも、似たことがあります。きれいな写真や印象的な言葉に惹かれる。でも、何をしている会社なのか、自分のような相談でもよいのかが分からず、そのまま閉じてしまう。

専門性や独自の世界観は、その会社を選ぶ理由になります。ただ、迎えたい相手が「ここに相談してよいのだろうか」と迷っているなら、事例や仕事の進め方が手がかりになります。どんな相談を受け、どのように応えてきたのか。それが見えると、自分との接点を見つけやすくなります。

店の扉も、企業のトップページも、その先にあるものを想像する場所です。入口の設計を考えることは、誰と、どんな関係をつくりたいかを考えることでもあるのだと思います。

次に「入りにくい」と感じたら

次に、
気になる店の前で足が止まったら。

何が自分を止めているのか、
少しだけ見てみてください。

値段が分からないからでしょうか。

中の様子が見えないからでしょうか。

一人で入る姿を、
想像できないからでしょうか。

あるいは、
その扉を開けるのにふさわしい日を、
待っているのでしょうか。

僕は、あの店に、
一人では入れませんでした。

でも、人生の節目を迎えた知人と一緒なら、
扉を越えられました。

もっと入りやすい店だったら、
もっと早く入っていたかもしれません。

ただ、
これほど長く、その入口を覚えていたかどうかは、
分かりません。

MIMOLA EYE

入りやすくすることで、
出会える人は増えます。

けれど、
身近になることで、
薄れてしまう憧れもあります。

一人では入れなかった僕が、
あの店には、
手の届かない存在であってほしかったと思っている。

その矛盾は、
今も、うまく片づけられません。

だから僕は、
入口を見るとき、
入りやすいかどうかだけではなく、
その先に何があるのかを考えたいと思います。

誰を迎えたいのか。

どんな時間を過ごしてほしいのか。

どんな存在であり続けたいのか。

デザインは、
扉を開けやすくすることだけでなく、
その向こうにある価値を伝えることでもある。

そんなふうに思っています。

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#DESIGNEYE #店舗デザイン #入りにくい店 #空間デザイン #ブランディング

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