CULTURE

良いデザインは、なぜ目立たないのか。

良いデザインは、なぜ目立たないのか。

街を歩いていると、「なんだか、この場所は気持ちいいな」と感じることがあります。店の佇まいだったり、看板だったり、照明だったり。でも、何がそう感じさせているのかを、はっきり説明できないことも多い。ひとつひとつのものが強く主張しているわけではないのに、全体として心地いい。そんな風景があります。

例えば、下町ではお馴染みの縁起熊手。熊手そのものは、とても華やかなものです。

  • 金ピカの小判
  • 真っ赤な鯛
  • 米俵
  • 打ち出の小槌
  • 色とりどりの宝物

ひとつひとつに意味があり、「福をかき込む」「商売繁盛」「家内安全」など、昔から大切にされてきた縁起が込められています。それだけを見ると、とても存在感があります。ところが、その熊手が店や会社に飾られると、不思議なことが起こります。

目次

  1. あんなに華やかなのに、なぜか馴染む。
  2. 「目立つ」と「馴染む」は、反対じゃない。
  3. デザインも、同じなのかもしれない。
  4. 良いデザインは、風景になる。
  5. デザインは、足すことだけじゃない。
  6. 熊手も、飾られて完成する。
  7. 「気づかない」は、悪いことじゃない。
  8. 次に、街を歩いたとき。

あんなに華やかなのに、なぜか馴染む。

店の入口や受付、仕事場の一角。そこに熊手が飾られる。金色があり、赤があり、たくさんの縁起物がある。決して地味ではありません。むしろ、かなり華やかです。それなのに、しばらくすると、「そこに熊手がある」ということを、あまり意識しなくなる。店の景色の中に自然に溶け込んで、まるで、もともとそこにあったもののように見えてくる。

そして一年を通して、店を訪れる人。そこで働く人。そこに集まるお客様。そんな人たちを、静かに見守っている。僕は、この感覚がとても好きです。

「目立つ」と「馴染む」は、反対じゃない。

熊手は、目立つものです。色も形も華やかで、縁起物がたくさん飾られています。でも、目立つことと、馴染むことは、反対ではない。その場所に置かれたとき、その店の雰囲気や、人の営みと一緒になって、ひとつの景色になる。そこに、熊手の面白さがあるのかもしれません。

デザインも、同じなのかもしれない。

デザインというと、特徴的なロゴ。大胆な色。目を引く広告。斬新な形。そんなものを思い浮かべることがあります。もちろん、それもデザインです。でも、デザインの役割は、「目立つこと」だけではありません。その場所に置かれたとき、その人が使ったとき、その店を訪れたとき、自然にそこに存在すること。そして、人の気持ちや行動をそっと支えること。それも、デザインなのだと思います。

良いデザインは、風景になる。

例えば、街の案内表示。初めて訪れた場所でも、「こっちに行けばいいんだ」と自然にわかる。ホテルの照明。明るすぎず、暗すぎず、気づけば落ち着いている。店の椅子。特別なものだと意識しなくても、なぜか座りやすい。どれも、「私はデザインされています」とは言ってきません。ただ、その場所の風景の中にいて、人の行動や気持ちを支えています。

デザインは、足すことだけじゃない。

デザインをするとき、「何を入れるか」を考えることは多い。写真を入れる。色を入れる。説明を入れる。装飾を加える。でも、ときには、「何をなくすか」のほうが大切になることがあります。情報が多すぎるなら、減らす。色が多すぎるなら、絞る。説明が長すぎるなら、短くする。その場所に合わないものなら、あえて入れない。何を残して、何をなくすのか。そして、そこに置かれたものが、その場所とどう関係をつくるのか。それを考えることも、デザインです。

熊手も、飾られて完成する。

熊手をつくるとき、ひとつひとつの縁起物を選び、色や配置を考え、全体をつくっていきます。でも、熊手は完成して終わりではありません。お客様の店や会社に飾られて、その場所の景色の一部になる。そこで一年を過ごして、働く人や訪れる人を見守る。そうなったとき、熊手は単なる「飾り」ではなくなるのだと思います。つくり手の手を離れて、その場所で新しい役割を持ちはじめる。それもまた、デザインに似ている気がします。

「気づかない」は、悪いことじゃない。

デザインが見えない。そう聞くと、少し物足りなく感じるかもしれません。でも、使いやすいWebサイト。迷わない案内。自然に座りたくなる椅子。落ち着いて過ごせるホテル。そして、いつの間にかその店の景色になっている熊手。どれも、「見てください」と主張しているわけではありません。それでも確かに、そこにいる人の時間を支えている。

次に、街を歩いたとき。

「なぜ、ここは心地いいんだろう?」

と考えてみる。なぜ、あの広告はあの配色なのか。なぜ、この店は街に馴染んでいるのか。なぜ、この空間は落ち着くのか。そして、なぜ、あの華やかな熊手は、いつの間にかその店の景色になっているのか。答えがひとつである必要はありません。考えてみるだけで、いつもの風景が少し違って見えてきます。


Mimola Eye

良いデザインは、必ずしも目立つ必要はない。たとえ、とても華やかで、たくさんの意味を持っているものでも、その場所に置かれ、人の営みと一緒になったとき、いつの間にか風景の一部になることがあります。熊手が、店や会社と、そこで働く人、そして訪れるお客様を静かに見守るように。デザインもまた、そこにいる人の時間をそっと支えるものでありたい。目立つことより、その場所に残ること。そんなデザインがあっても、いいのではないでしょうか。


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